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土佐絵日記

出不精に候

出不精である。

言葉にすると、さもありなん、という感もあるが、音律としてはデブ症のような、食べてもないのにプクプク太り続ける途方もない肥満体質な気もするし、出武将なんて書くと出ては大楠公のごとく勇ましそうである。まあ、最後は負けるんだけども。

どちらにしてもあまり格好の良くないことは確かではあるが、私はデブでも大楠公のような武勇もなく、言葉通りに単なる出不精である。そんな出不精が当地の方々に「高知の名所には行かれましたか?」と問われると、大変困る。

高知城は行かれましたか?と問われれば、私はそこに行ったことがない。では、龍河洞は行かれましたか?そこにも私はついぞ行ったことがない。

こうなってくると、相手も意地みたいなものが出てきて、高知の名所旧蹟を片っ端から羅列してくれるのだが、全く行ってない。そうなると、相手も疑問を感じで、高知まで来て名所に行かないのですか?と問うのだが、庭で本を読んでます、ともなんとなく言い辛いので、「機会が私を捉えないのですよ」というような事を宣う事になる。

そして、相手はヤレヤレ信じられないといった顔をして、その会話は終わった。

 

なんだかこの流れ覚えがあるなあ、と思ったら、百閒先生がドイツ人のご婦人を相手にやっておられたこんにゃく問答とそっくりである。後十年もしたら私もしげしげと缶詰を見物するようになるのかもしれない。

 

さて、そんな出不精な私の数少ない外出先といえば近所の魚屋である。そこでワタリガニやらイワシやらソウダガツオの新子であるメジカ、ついでに鯛を仕入れた。

 

 

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全景。さしみ、かに、薬味、ところてん、野菜。酒は桃太郎の純米吟醸。

 

近頃はこういう感じが流行りらしいのでやってみた。あんまり綺麗に盛り付けすぎないのが当世風ってことだろうか。

 

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薬味は上からバジルを入れたビネグレットソース。にんにく醤油。三杯酢。生姜。

 

わたりがに。二人で一杯で十分な量だった。ビネグレットが意外と合うので、身を全てほぐしてタルタルにしたら大変な美味だと思われる。めんどくさいので私はしないが。

 

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たい、いわし、めじか。

 

たいはまあまあ。イワシは実に美味く、土佐のイワシは本当に良い香りがして美味い。メジカはオランダ人がニシンの新子をべろんと食べるような感じで、すだちをしぼって頂く初秋の縁起物。味は軽くて白ワインの方が良かった気もする。

 

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土佐の野菜。刺身に負けずに美味。

 

本日は魚を魚屋さんに刺身に引いてもらって、盛り付けるだけ。わたりがには蒸すだけだし、野菜はスライサーでシャカシャカ切っただけ。実に手抜きの夕食だが、美味しい夕食だった。

ところで、料理の要諦は素材の味を生かす事だそうである。今日の夕食の美味しさに出不精な私の性格が素材の味を生かす事に一役くらいは買っていると思う事が赦されるのではなかろうか?

だとすれば、私が名所旧蹟に赴かない事が何かの一役を担っていても不思議はないだろう。もっとも、出不精でない事で美味しくなる理由もあるのだろうが、それはその内に、出不精でなくなった時にでも考えるとしよう。

 

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