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土佐絵日記

北風と太陽と餃子

「唯才是挙」

三国志の時代、戦争ばっかりしていて国家経営をする人材が全く足りなくなり「徳がなくても罪人でもやくざでもテロリストでも才能があれば登用する。」と時の権力者の曹操孟徳が発した布告である。

当時どれだけショックな布告だったかはよくは想像できないけども、今で言えば「中国共産党員でなくとも国家中枢で仕事をさせる。」と習近平が言い出すようなことだと思えば、当時の動揺もなんとなくは窺い知れようというものである。

旅の途中でそんなお店に出会った。私は自動車で旅行をする際に昼食をとる時はなるたけ高速を降りて、地元の食堂で食事をとる事にしている。サービスエリアで機械的に出てくるものをモソモソと食べるのは味気がないし、何より知らない土地で食堂を探す事は面白い。時には食堂が見つからず空腹のまま山道を一時間近く走り回る事もあるが、それでも新しい出会いがあると面白い。

今回立ち寄ったのは備前市の日生町という集落で、道沿いには「当地ではアナゴが名産」と看板に書いてあった(実物にはお目にかかれなかったが)ので、漁師町なのだと思う。そんな日生町を妻とてくてくと歩いて、見つけた食堂が山東水餃子大王というお店である。

まず名前からして素晴らしい。自身に大をつける人は辛うじて遠藤周作という人が「大遠藤」と自身を名乗った事を知っているが、自身に「王」をつける人を私は知らない。山東の偉大なる水餃子の王。これは入らない訳にはいかない。ガラッと引き戸を開くと愛想のよいおかみさんと笑顔の素敵な息子さんが爽やかに迎えてくれた。雰囲気も上々で大王と名乗る割に親切だな、まあ客商売だからそりゃそうだわね、などと思いながら、メニューを見ると実にシンプルに水餃子、酸辣湯、スペアリブの煮込みと三種のみ。

どれだけ出てくるか分からないので、一つづつ全部食べてみるかと思い、店員さんを呼ぶと先ほどの愛想の良い二人ではなく苦虫を噛み潰したような大王が出てきて、

「注文は?」

「水餃子と酸辣湯とスペアリブをください」

「いくつ?」

「一つづつ」

そこで苦虫を噛み潰したような大王はハーッと深いため息をつき、

「一人一品は注文してくれないとねえ」

と非常に粘っこい嫌味な感じでおっしゃられた。

我々は三品頼んだつもりだったので、

「水餃子と酸辣湯とスペアリブで三品じゃないんですか?」

と尋ねると、大王は苦虫を噛みながらも器用にニタニタ笑いながら、

「餃子は一人一個は注文してくれないと困るんだよねえ。」

とおっしゃる。誰がどう困るのかは計り知れないが、そういうローカルルールがある事を知らなかったのは私の落ち度なので、

「申し訳ない、餃子は二つ、あと酸辣湯とスペアリブは一つづつお願いします。」

と大王にお願いを立てたところで奥から愛想の良いおかみさんが馳け出てきて、こいつマタやった!という顔で大王を奥に引っ張りこんでいった。

その後、酸辣湯、スペアリブ、水餃子が運ばれてきて、その味に舌鼓を打った。味はスペアリブと酸辣湯は好みと合わなかったけども、水餃子は大王を名乗るだけあって非常に美味しかった。東京には店名に餃子を冠する繁盛、有名店があるけども、その殆どが不味いので、彼らに爪のアカでも飲ませてやりたいくらい美味しかった。

 

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右上が酸辣湯、左がスペアリブ、右が水餃子二人前。

 

そのお店は持ち帰りの冷凍餃子があるので、弟夫婦の家に土産にしようと五十個だったか六十個を土産で所望すると、おかみさんが実に丁寧に作りかたを教えてくれ、奥の大王に、

「ほら!こちらさんが沢山お持ち帰りを注文してくれたよ、お礼いいな!」と大王を肘でつついていたが、大王はご機嫌が麗しくなかったようで一言、

「あー。」

と言ったきりで姿をお見せになられず、実に見事な専制君主ぷりであった。帰りしな、息子さんとおかみさんに、

「美味しかったですよ、ごちそうさま」

と、挨拶をすると実に嬉しそうな笑顔で「ありがとうございました!」と返してくれた。大王の暴虐の後の側近たちの笑顔はイソップの北風と太陽の喜劇を見るようで愉快であった。

岡山県の日生町にお寄りの際は美味しい餃子を出す山東水餃子大王を訪れてみてはいかがだろうか?その結果気分を害しても私は知らない。

 

 

 

 

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