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土佐絵日記

ブレーメンの餅つき

「十五夜ですので、よろしかったら月を見ながら召し上がってください。」

近くの牧場の主から月見団子を頂戴した。誠にありがたい事である。

 

月見餅をつくのはうさぎと相場が決まっているが、牧場はヤギを主に飼育している牧場で、他にも犬や鶏もいてブレーメンの音楽隊のようだが、やはり主役はヤギであろう。

 

土佐の朝は早い。まだぼんやりと霧がかかった牧場は夜の明けぬうちからにわかに活気付く。

ヤギ達は起き出すと、父ヤギ達はツノを使って器用に寸胴を運び、母ヤギ達がもち米の袋を運んでくる。そこに子ヤギ達がホースをくわえてやってきて、メーメーと水を汲む。母ヤギ達がそこにもち米を入れ一声メエと合図すると、父ヤギ達がツノを使って寸胴をガシャンガシャンと力強く揺すってもち米を研ぎ、水を捨てる。するとまた子ヤギ達がメーメーと水を汲む。

そうやって、ヤギ達が作業している間に犬はもち米を蒸す準備のために、釜を前足でがらんがらんころがしころがし運んでくる。少し耳にやかましいが楽器のようなものだと思えば思えなくもない。それに餅の美味しさを思えばこれくらいの事はむしろ楽しみであると、器用に準備を整えて湯を沸かし、せいろを載せる。

ヤギ達の米とぎも終わり、せいろに米を入れるとヤギ達と犬はしばし休息する。朝も明けぬうちからの仕事なので一仕事終えてからの仮眠である。蒸しあがるもち米の良い匂いが周囲に漂い始め、周囲の空が茜色に染まり始めると雄鶏が待ち兼ねて時を告げる、コケコッコー。

さあここからがヤギの餅つきの見せ場である。父ヤギ達がその大きなツノで付き合わせてガツンガツンと餅をつくのである。これは餅つきというよりは餅突きとでもいった方が良いだろう。そのぶつけ合いの勝利者が群れのリーダーの資格を得るかの如くであるが、あくまで餅をついているだけである。こればかりは母ヤギ子ヤギ、犬も鶏も身守るだけである。

餅がつきあがると子ヤギ達の出番である。その権威を大いに示した父ヤギ達はくたびれたので休憩する。人もヤギも大人の男はこういう場で細かい作業を好まないのは不思議な事である。子ヤギ達は前足で餅を団子にしていく。年かさの子ヤギ達は蹄を使うのが器用で次々に団子にする。年の幼い子ヤギ達は団子にするよりも、遊ぶ方に興味があるらしく餅を色々な形にして並べたり、団子にするとすぐに食べてしまうが、誰も叱ったりはしない。餅つきは幸せの象徴であればこそである。

団子が出来始めると、母ヤギ達が作っていた、みたらしが辺りを甘い香りに包みはじめる。犬は如才なさを発揮し、餅の入った容器を右へ左へと楽しそうに運び駆け回り、鶏は今か今かと二番鶏が鳴くのを待ち構え始める。さあ、後はみたらしを塗るだけという段で、休憩していた父ヤギ達がやってきて、みたらしを塗り始める。最後の仕上げはその立派なあごヒゲでみたらしを塗る。この仕上げの一刷毛だけはどうしても譲れない、こだわりの部分である。

ついに最後の一刷毛を塗り終えると、二番鶏が時を告げる。コケッコッコー。

こうして月見団子は出来上がったとさ。めでたしめでたし。

 

そんな様を思い描きつつ、頂いた団子は満月を眺めながら美味しく食べた。ところで、ブレーメンはロバ、犬、鶏、猫が登場する。ロバはヤギに置き換えるとして、牧場に猫がいなかったのが残念である。もし牧場に猫がいたら、きっと猫は上手に団子を丸める事だろう。猫の肉球は、そのためにあるとしか思われない。

 

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ヤギ。クールそうに見えるが明るい性格。

 

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